短編小説
改札を出た和也は、額に浮く汗を手の甲で拭った。 まだ6月になったばかりだというのになんという暑さだ。 駅の改札の前は人でごった返している。熱気が溜まっているようで暑さが余計に増すのを感じる。早く移動したほうが良さそうだと和也は目的の方向へと歩…
和也は自宅のリビングに置かれたソファにどっしりと深く座り、1人競馬新聞を見ていた。 その競馬新聞を持つ手が小刻みに震えていた。 「ついにこの日が来た」 誰に聞かせるでもない言葉を発した和也の目は不思議なほどの確信に満ちていた。 この日が来るまで…
異形の化け物たちが迫りくる。”私”は唯一の武器である剣を構えて化け物たちに立ち向かう。間合いを見計らって剣を振ると、切れ味鋭く化け物たちを切り裂いた。異形の化け物たちは人とは異なる青い血を切り口から吹き出しながら倒れていく。だがいくら切って…
「未来から来ただって?」 和也は思わず大きな声を出してしまった。 ハッとして、とっさに周囲を見渡してしまったが、店内には和也とマスターの2人しかいなかった。 「ええ、先週くらいからここ数日、何度かお越しになられてたのですが、先日来られた際にこ…
青いボールを蹴りながら走る少年が目の前を通り過ぎていく。 少し向こうからは子供達の悲鳴とも歓声ともつかない甲高い声が響き渡っている。 和也は座るベンチの固さにお尻が痛くなり少し座る位置を変えるために腰を浮かべた。 「どこに行くの?」 目の前に…
前のめりにパソコンに向かっていた和也は、マウスを動かす手を止めて座っていた椅子の背もたれに寄りかかった。そして軽く首を左右に動かし、凝り固まった首回りの筋肉をゆっくりと解した。 「ふぅ、やっと終わった」 そうつぶやき、壁にかかっている時計を…
ランキング参加中【公式】2024年開設ブログ 自動ドアが開きビルの外へ出た。 時刻は20時をすでに回っている。周囲は暗闇に覆われ、そして顔に当たる夜風が冷たい。 ビルの前の通りは駅の方向に向かうポツポツとした緩やかな人の流れができているが、和也はそ…
ランキング参加中【公式】2024年開設ブログ 「親父、大丈夫なのか。」 和也がそう聞くと、和也の父親の孝雄はキョトンとした顔で答えた。 「何がだ。」 「何がって昨日電話したときに体調悪いって言ってたじゃないか。」 和也はそれが気になって、仕事終わり…
ランキング参加中【公式】2024年開設ブログ 「あらっ、子供たちは」 風呂上がりの濡れた髪をタオルで拭きながらリビングに入ってきた妻の伽耶は、さっきまでリビングでゲームをして遊んでいた子供たちがいないことを夫の和也に尋ねた。 「もう部屋に眠りに行…